日本語は友達♪
明細書を作成したり
意見書(特許庁への反論等)の案文を練ったり。
この仕事をしていると
言葉の選択や表現に迷うことは
しょっちゅうである。
特に、「形状物」と言われる発明。
(物のカタチや構造等に特徴がある。)
ビジュアルには分かっていても、
いざ、言葉で表そうとすると
かなり至難の技である。
私の仕事は化学系が多いので
クレーム(特許請求の範囲)中で用いる表現は
ある程度パターン化されている面もあり
形状物系と比較すると
苦労が少ないとも言える。
しかしそれでも
明細書全体や、意見書などでの表現は、
ともすれば、実際の発明とズレてしまったり、
余計なことを書くと
後で権利を狭く解釈される原因ともなり得るので、
全く気は抜けない。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
一方、自分ではうまく表現出来た!
と悦に入っていても
依頼者には納得して貰えず
ガッカリすることもある。
特に
自分の技術に自信と愛情を持っておられる発明者さんの場合
特許権の広さや強さには
ほぼほぼ影響しないと思われる箇所に至るまでも
ひどく気にされたりする。
(基本的には、お任せという名の丸投げより
隅々まで気にして頂くほうが、大歓迎!!)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
同業の知人の中には
案文を送った後、発明者さんに呼び出されて、
「きみは、何にも分かっちゃぁいない!!」
…と、こっぴどくお説教・・・
あ、いえ
より良い文章にするためのご講義
を延々と賜った人もいる。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
幸いにも
私が これまでお世話になった発明者さんは
穏やかなかたが多かったようで
お蔭様で、和やかに仕事をさせて頂いている。
ただ・・・・・・
限られた時間の中で
最善を尽くそうとしている中
正直、どっちでもいいやん!
それとこれと、どう違うの!?
なぁんて思うような細かい表現の違い ※注1
について指摘されてしまい
ぶちキレそうになったことなど
一切 無い!!
・・・・・・と言えば大嘘になる。
(※注1:但し、 良く良く聞いてみると
確かにニュアンスや意味が違っており
発明者の指摘が正しいことも少なくない。
代理人には、ケンキョさが必要である。)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
時には
お客様の内部でも
関係者 ※注2 間で意見が分かれることもある。
(※注2:発明者,研究部隊TOP,知財部,事業部等)
表現が二転三転して
なかなか最終的な表現が決まらない。
そんなの、社内で
どっちかに決めてから来てヨ~!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
会社員(知財部員)時代には
こんなこともあった。
特許取得のためのテクニックでいえば
明らかに簡単に通りそうな
言わば おいしいネタ ※注3があった。
(※注3:引用例との差別化の表現方法)
但し、事業部の方針で
その表現の仕方は、あまり好ましくない
(むしろ絶対使いたく無い)
ということになってしまった。
ブッツブー!!
決して、その表現の仕方に嘘があったのでは無い。
関連する商品のアピールポイントが
他にあったため
敢えてそこは強調したくない
….といういわば
イメージ戦略のようなもの。
知財担当者からしたら
?(@◇@)?
………は????
である。
特許にする過程で主張した表現方法が
必ずしも商品のイメージになる訳では無いからである。
しかし
実際に特許権を活用するのは事業部。
その事業部からの要望であれば
法律に反しない限り
最大限、尊重すべきでもある。
そして、理由は色々あったが
会社側の知財担当者として 私は
その事情と表現方法を、敢えて
“社外の代理人” には伝えなかった。
代理人の先生との打合せでは、
別の表現方法で意見書を作成する方向で
話は 上手くまとまった。
やれやれ。。。。
数日後
上がってきた意見書ドラフトは
敢えて隠していた…と言うか提案を控えていた表現方法を
最大限に活用したものであった。
あちゃーーーー!!!
上司と飛んで行って、平謝りである。
代理人の先生にしてみれば
ナゼダー!?(怒)
・・・そりやそうだ。
勝てる確率は きっと上がるのに。
ともあれ
『その手は、どうしても使いたくない!』
という事業部の方針は絶対なので
取り敢えず最初のドラフトはpendingに…
かと言って、それと比較すると
最初の打合せの表現では、
確かに、インパクトが無いという先生の意見も
判りすぎるほど判る。
私は言わば板挾み。
↑
ラング・ド・シャ挟み
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
このような時、
特許の仕事は、難しい…
とつくづく思う。
技術論、言語論というよりは
殆ど 人間関係の問題やん!
っと思うことすらある。
発明者さんが
一体、何が気に入らないのか
良くわからないこともある。
しかし、ここでアキラメては
弁理士の名が廃る!?
弁理士は、
技術面、法律面から見て
有利かつ正確な文章を書くのが仕事である。
しかし、更に一歩進んで・・・
そこに関わる皆の気持ちを1つにし
出来れば関係者全員が納得するような表現にする。
あるいは、発明者さんのこだわりを最大限理解し
(権利の広狭に関係無くとも)
ご本人も納得できるような表現を探す。
ここまでやってこその
代理人なのではないだろうか。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
さて、では実際このような場面で
いかにして名文を捻り出すか・・・!?
私は、決して
大学などで、深く日本語を学んだ訳ではない。
純文学ってどういうジャンルかも良く知らない。
漢字や熟語は、まずは漫画雑誌で覚えたような感じである。
それでも、曲がりなりにも半世紀
この日本で
日常会話に不自由無く、生活して来た。
日本語の技術論文や特許を読んで
全く理解不能・意味不明
・・・ってことは
そんなには無い。
(新しい分野の専門用語は除く)
・・・・・多分。
だったら
普段使ってはいなくても
恐ろしい数の日本語の表現方法を
ワタシのお脳は、知っている筈!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
私の座右の銘は
信ずる者は、救われる!!
である。
真っ向から対立している発明者と事業部の
両方を満足させるような表現なんて
ある訳 無い!!
…なぁんて思っていては
見つかるモノも 見つからない。
自分で自分を信じなきゃ!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
この世に生まれたその瞬間から
ずーっと
共に歩んできた日本語。
社会と、ワタシを繋いできてくれた日本語。
その大切な友達を信じて念じれば
必ず、あっと驚くウマい表現が見つかる筈!!
関係者の皆が喜んでくれて
尚且つ審査官をも納得させる
素晴らしい日本語が、
必ず、降って来てくれる筈!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
(後日談)
上述の、事業部と外注代理人との板挾みの件。
結局、この行き詰まりを契機に
必死になって明細書を読み返し、発明者と議論を繰り返した。
その結果
最初のドラフトとは違うものの
引例との差別化が際立つ
更に上手い表現に行き着いたのである!! ※注4
事業部の懸念をも引き起こさず
最初のドラフトに引けを取らない意見書で
見事、特許成立!!
(最終的に素晴らしい意見書に仕上げたのは
モチロン、外部の代理人センセイなんだけど….(^^;;)
(※注4:勿論、明細書に記載の範囲を逸脱してはいけない。
あくまでも
記載済みのデータの“解釈”についての表現である。)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
その他の案件でも同じである。
人間関係の調整なんて
本来の弁理士の仕事じゃ無い!
…と、一旦思ってしまっても
ちょっと考え方を変えてみる。
そこに、関わる全ての人が納得できる表現。
それを見つけることこそが
この仕事の醍醐味!!
と思い直し
長年の友達(私の日本語のヒキダシ)
に問いかけてみる。
そうすることで
最終的に、より良い表現が
必ず、やってきてくれる筈。
そう信じて、日々修行中である。
(ひたむきな努力・・・・・・の図)
そうして苦労した分
特許成立の可能性だって上がる筈。
チャリン チャリーン ♪♪
(↑ あっつつ・・・・失言)